金沢の桜 二

 古語で「このはな」と言うとき、「此花」であれば主に梅を、「木花」であれば主に桜を指すという。

 今日「はなみ」と言うとき、特に条件を付けなければ、染井吉野の大樹か並木を見上げるようにして花を愛でる(ついでに佳き酒、旨い肴を楽しむこともあろう)「花見」を想起してしまうことが大半と言っていいだろう。

 しかし、ただ染井吉野のみが桜にはあらず。他にも我々の目を楽しませてくれる木花はあちこちにある。今回は、兼六園から比較的近くにある一本立ちの桜を幾つかご紹介したい。

 

 まず、石引の住宅街から。石引・小立野の住宅街には小立野寺院群と言われるほどに寺院が結構な数あるのだが、その中の一つ、慶恩寺。兼六園の小立野口から石引の通りをしばらく進み、途中でちょっと路地に入ったところに鎮座するここの境内に、なかなか立派な枝垂桜がある。境内にあるといってもその境内自体が大変狭いため、土塀を越えて道路にまで大いにせり出している、そんな枝垂桜である。花の盛りは染井吉野より少しだけ早い。

 近年は多少枝を払ったためかはたまた老齢故か、少々勢いを減じた気もするが、それでも満開時に下から見上げると、まるで包まれるかのような光景である。三月の末から四月の初頭頃にこの辺りを散歩すると、ちょうどいい具合の花見ができるだろう。

 

 続いて、赤レンガミュージアムこと県立歴史博物館の中庭にある枝垂桜。結構濃い目でかわいらしい色の花をたっぷり咲かせる木で、一本立ちの木の中では一番の王道である。近くからじっくり楽しんで良し、角度を選んで辺りの染井吉野と色合いの対比を楽しんで良し、赤レンガとの組み合わせを楽しんで良しと「良いのは間違いないが、どの良さを推すかは人によって分かれる」くらいの八面玲瓏ぶりである。花の盛りは染井吉野より少しだけ遅く、結構長持ちする。

  赤レンガミュージアムの方でもこの木の魅力はよく分かっているようで、夜はライトアップするし情報発信もしっかりしている。花の折に近くまでお出でになったなら、是非足を運んで頂きたい。

 

 最後に、本多の森ホール裏手の緑地にある桜。それほど丈もない小振りの木で、淡い花の色と相まって全体的にかわいらしい。歩道の方から見ると、ちょうど本多の森ホールの暗い色の壁面を背景にすることになり、よく映える。辺りに木々は多いのだが、それらから少し離れてひとり立つ様子は、凛としつつも可憐である。花の盛りは前述の赤レンガミュージアムの枝垂れ桜と同じくらいで、互いに非常に近い距離にあるので、セットで回ってみるといいだろう。

 

 他にも、金沢の市街地にはあちこちに花木があって不意に私たちの目を楽しませてくれる。

 皆様も、もしご近所にお勧めの花木があれば、是非お教え頂きたく思う。